M・B・O  L・B・O 

 

M・B・Oはマネージメント・バイ・アウト(Management Buy-Out))の略で、上場会社の経営陣が自ら経営する会社を買収し、未上場会社にしてしまうT・O・B(公開企業買収)の一種です。

上場されたままだと株主のコ−ポレートガバナンスがわずらわしい、いっそのこと経営者が全株式を買収し、会社を立て直して将来いつの日か再上場させよう、という事例が多いといわれます。

もちろん雇われ経営者は会社を買収するほどの大金を持っていないので、多くの場合は投資銀行や証券会社が買収資金の用立てを手伝います。

ここで肝心なポイントは、金を外部から引っ張ったからには経営者自身も投資の自己責任原則を背負わなくてはならないことです。

つまり経営者は従来の経営責任と共に、会社と一蓮托生の“失うものの大きさ”を自覚することになるのです。

 

今回のフジテレビおよびニッポン放送に見られる経営者の慌てふためきぶり。

会社は経営者および従業員のモノ」と開き直りながら、出資金は赤の他人の株主任せを自覚しているからでしょう。

それでいて既存株主を庭先のシロやポチ扱いする抜け目なさ、あつかましさが随所に見られました。

 “法人資本主義”の名付け親、奥村宏先生でさえ呆れそうな「企業官僚専断主義」とでも呼べる醜態暴露でしたね。

テレビのインタビューに答えるフジテレビやニッポン放送の経営者に「てめえさえ助かるなら何でもあり」と感じたのは私一人ではなかったでしょう。

今回のTOB騒動はニッポン放送の社長が3月11日、テレビで全日本国民に 「ライブドアの市場外取引は証券市場に対するテロ行為」 と言い放ったとき、勝負は終わりました。

 そもそも最初に市場外取引制度を利用して防戦買いを始めたのは、昨年9月のフジテレビ側だからです。

 こういった最重要事実を幹事証券からレクチャーされないままインタビューに応じる経営者は、当事者能力など最初から期待されていないのでしょう。

上場会社の経営者を未熟児扱いした幹事証券の大和証券SMBCは、元オーナーの鹿内氏の主張を「誹謗中傷には法的措置も検討する」と開き直っております。

鹿内一族はニッポン放送株式の売却および資産運用に関する信託契約を、大和証券SMBCと結んでいました。

 ところが大和証券SMBCは個人客との信託約款よりも法人間との取引、すなわちフジテレビとの円滑な関係維持を優先してしまったのでしょう。

増資の引受業務に携わる法人営業部門と、個人客のフィナンシャル・アドバイザーに横たわる利益相反を意味します。

経営者も幹事証券も“ろくなもんじゃねー♪”

 

以下は大和證券の言い訳大全集です。

http://www.daiwa.jp/press/index.cfm#

 

今から70年も前にアメリカの経済学者、バーリーとミーンズは『近代株式会社と私有財産』のなかで「(経営者)は会社のために利益を生み出すよりも、会社を食い物にしたほうが、より私腹を肥やせるのである」と喝破していました。

 

ニッポン放送は1996年の新規上場時に公募価格3750円で200万株の公募増資を行っている会社です。

会社に資金需要があればこそ、従来の株主に持ち株を放出してもらう「売り出し公開」でなく、資本金や発行済み株式の増える「公募公開」を選んだ会社なのです。

さて上場時に75億円の資金調達を行った会社にとって、最も重要な資金使途は何だったのでしょうか?

なんと、フジテレビの持ち株会社としてフジテレビ株を34%も保有することが最大の仕事でした。

つまり上場の目的が鹿内一族の持ち株比率を下げさせる、といった真に不純な動機であったのです。

証券市場を御家騒動解決の道具にしてやろう、ついでに行きがけの駄賃で公募資金もかっぱいでやろう……。

ちなみに会社四季報1999年1集のニッポン放送に関する注記は「インターネットで就業体験情報を提供するホームページを企画会社と共同で開設」でした。

おやおや、インターネットは不倶戴天の敵だったのではないでしょうか?

1996年12月、世の中をなめきって天に向かって吐いた唾がタイムスリップし、ようやく頭上に降りかかって来た、と記録されることでしょう。

 

ここで冒頭にご説明したM・B・Oをご紹介しましょう。

近年、世界でもっとも話題になったM・B・Oの例は、ダイヤモンドのデビアス社が行った上場廃止といわれます。

デビアス社は19世紀末、帝国主義国家イギリスの尖兵といわれたセシル・ローズ(Cecil John Rhodes 1853〜1902)の創立した会社です。

セシル・ローズはいくら植民地時代とはいえ、自分の名前の国をアフリカにつくってしまった傑物です。(註1)

デビアス社はローズの死後、1930年ころまでにドイツ系ユダヤ人のアーネスト・オッペンハイマーの「アングロ・アメリカン社(AAC)」に買収されました。

今も全世界のダイヤモンドの産出および生産額のおよそ60〜90%を支配といわれるビッグ・カンパニーです。

このデビアス社は2001年5月、2兆円の資金を調達したうえで一般株主にMBOを申し出て上場廃止の道を選びました。

1893年、ロンドン株式市場に上場してから108年の歴史に終止符を打った最大の原因は、冷戦終結によるダイヤモンド原石市場の価格体系崩壊といわれます。

 

次にご説明するL・B・Oは、レバレッジ・バイ・アウト(Leveraged Buy-Out)の略で T・O・B(公開企業買収)の一手段です。

これから買収しようとする相手先の資産を想定担保として勝手に資金調達し、過半数株式を取得する経済行為とご理解いただけますか。

買収に成功したら会社に乗り込んでいって、工場や会社などの資産を切り売りし、その金で以前の借金を返すやり方は、どこか押し込み強盗を思わせるものがあります。

残りの資産を清算して会社を解散するか、買収チームの本来の事業と企業合併させるかは、ケースバイケース。

アメリカ的なユニークというか乱暴きわまる発想は、1980年代のニューヨーク株式市場で爆発的な流行をよびました。

日本では国民世論的なイメージとして企業買収は罪悪視されており、L・B・Oはそれ以上の荒業だったので、故意に報じられなかったきらいもあります。

80年代初期にL・B・O資金として、アメリカの金融機関から提供された金額は約80兆円(当時の為替レート)で、日本の国家予算を上回る規模といわれました。

ほとんどすべての上場企業が買収の脅威にさらされ、アメリカ全土で会社まるごとの売ったり買ったりが繰り返されます。(註2)

アメリカ経済カジノ時代のメーン・イベントがL・B・Oといえました。

上場企業の経営者は資産をフル活用しないと、ただちにL・B・Oを仕かけられる恐怖感から、考えられる最大限のリストラをはかり、株主資本の有効利用につとめたと言われたほどです。

今は赤字だけれど、そのうち世の中の景気が良くなったら当社も黒字になりますよ」なんてノンキな事をいう経営者は、あっという間にL・B・Oで買収され社長室から放り出されてしまったのです。

 

1983年にドレクセル・バーナム証券のマーティー・シーゲルやマイケル・ミルケンがジャンクボンドを誕生させます。

L・B・O資金を金融機関から借りることのできないような弱小買収チームに、債券市場で超高金利債券を発行させたわけです。

買収に失敗すれば全額返済が困難になるジャンクボンドは、債券というよりも、我が国のデパートが正月に売りだす福袋を思わせます。

(このいきさつを我が国のマスコミは詳しく報じなかったため、ジャンクボンドは潰れそうな会社が発行している債券と誤認されるようになりました)

利率の20%オーバーは日常茶飯事で、臨機応変のギャンブル・レートと化し、利率40%を超えたブームのところで、当時の預金金利自由化の波に直面し、運用先に困っていたS&L(貯蓄・貸付組合:我が国の信金、信組に相当)が飛びつき買いしました。

 

結果的に1980年代を通じたL・B・Oの成功率は平均15%といわれるほど、低いものでしたから、買収失敗は即座にジャンクボンドの償還不能へとつながり、債券購入者を破産させてしまいます。

ジャンクボンドはそれまで金融機関が請け負っていた、買収資金シンジケートローン(投資銀行の協調融資)の肩代わりをつとめたかたちとなり、最終的に発行金額の約40%が償還不能になったといわれます。

80年代末期のタイム&ワーナー事件やユナイテッド航空事件を最後に、L・B・Oの大ブームは峠を越えたようです。

後に残ったものは20兆円を超えるS&Lの債務超過と2000社以上の経営破綻でした。

ヒーローだったマーティー・シーゲル、マイケル・ミルケンそして闇の帝王といわれたアイバン・ボウスキーたちは刑務所行きとなり、ドレクセル・バーナム社も倒産します。(註3)

L・B・Oが決定した銘柄を先まわりして買う、インサイダートレーディングの罪状からでした。

 

しかしL・B・Oがアメリカ産業界に与えた80兆円の恐喝効果は効果てきめんで、個別企業のシェイプアップを格段に促進させたことになります。

アメリカ企業が1990年代のIT経済化にすんなり移行できた最大の功労者こそ、L・B・Oの活力と指摘する経済評論家もいるほどです。

アメリカやイギリスでは資産の有効利用を怠った会社が、次々とT・O・BやL・B・Oの矢面に立たされ、経営陣は息つく暇のない時代が10年以上も続きました。

 

NHKは会長辞任騒動の仇討ちでしょうか、ニュースの時間になるとライブドア V・S フジテレビ紛争を真っ先に報道して飽きません。

たった一件のTOBでこの騒ぎです。

我が国で毎年100社以上の上場会社が、会社ごと売られたり買われたりという状況になったら、労働団体はもとより政治家、コンサルタント屋、右翼、事件屋……。

その他あらゆる利権団体が乗り込んできて、国政はストップと考えられますね。

洋の東西を問わず、従業員のまるで知らない異次元で会社を売り買いされて、突然の工場閉鎖や事業部切り売りが発表されたら、現場で働く人々は堪りません。

しかしながら、その修羅場というか、ピストルの硝煙をくぐり抜け、ダウ平均10,000ドル乗せを達成したアメリカ経済の強靭性だけは、見習うべきものと私は考えます。

 

 

(註1)セシル・ローズ

http://www.geocities.jp/yokota634/newpage3historyc4.html

『ローズ奨学生―アメリカの超エリートたち』(文春新書:715円)

ローズ奨学金制度はセシル・ローズの遺言によって創設された留学制度で、毎年、旧英連邦を中心に世界各国から計88名の学生たちがオックスフォード大学に留学する。

アメリカでは1904年以降、すでに3000人近くの留学生が誕生。

多くは留学後にスーパーエリートとして政界官界にデビューすることになる。

 

(註2)以下はご参考

http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/lbo.html

http://www.mainichi.co.jp/life/family/syuppan/economist/030311/1.html

 

(註3)アイバン・ボウスキー

映画『ウォール街』(1987年作品)でマイケル・ダグラスの扮するゲッコー役がボウスキー。

http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD857/