< ライブドアスプリット・ショー >

 

スプリット・ショーとはライブドアの常軌を逸した株式分割を、ストリップ・ショー(Strip tease)に引っかけた私の造語です。

歌えず踊れず演技力もなく、一瞬の幸運で“アイドル”になったグラビア女優。

なんとかハッピーエンドで結婚式にたどり着いた「元アイドル」が思わぬ破局を迎えたとき、待ち受けている指定席は「傷心のヌード写真集」

ライブドアのスプリットもどきは自分の裸以外に売るものが何もなかった元アイドルの商魂を彷彿させます。

蛇足となりますが Sprit (スプリット) は証券用語で株式分割を表し、Strip Bond(ストリップ・ボンド)は利付債の利札(クーポン)を切り離した部分だけを売買する、ゼロクーポン債の一種とご理解ください。

http://www.investopedia.com/terms/s/stripbond.asp

 

そもそもライブドアが過去に行ってきた“株式分割”は本来の意味の株式分割と似て異なるもので、私に言わせれば売買単位の引き下げに過ぎない手品です。

あるいは昔風の証券用語でいえば単なる額面変更にすぎません。

ライブドアは2000年の上場以降、呆れるような頻度で売買単位の引き下げをはかり、2001年5月以前に1株取得した株主は現在3万株の大株主となりました。

 

分割: 2001/05/28 [1:3] 2003/06/25 [1:10], 2003/12/25 [1:100], 2004/06/25 [1:10]

 

しかしながらこのような株式分割スタンスは尋常といえません。

すなわち株式分割の前提となる一株当り利益や一株当り純資産がほとんど増えていない状況での分割とは?

子供が画用紙を繰り返し繰り返し半分に切り刻む作業と変わらない欺瞞なのです。

一株当り利益10円に満たない低収益会社ながら6億4千6百万株もの発行済株式を株式市場に溢れさせ、加えて今回のMSCB発行で5〜8億株の増資新株が打ち返されます。

リーマン・ブラザース証券の吐き出す借株を個人投資家が肩代わりすることで、なし崩しに総発行株式数だけは巨大化していきます。

中身は空っぽな会社が発行済み株式総数だけは、キリン・ビールや住友商事や日本郵船を上回ることでしょう。

 

つまり流通市場(セカンダリー・マーケット)が発行市場(プライマリー・マーケット)と混然化してしまうのです。

そして、おそらく一株当り株主資本は30円台まで低下が予想されます。

必然的にライブドアが株価維持を図ろうとしたとき、近い将来にさらなる規模、空前絶後の株式分割を余儀なくされることでしょう。

こうなったらシャブ中と同じですよ。

女房、娘をソープに沈めた金で「シャブをくれー!」

なぜこういうデタラメが我が国では「株式分割」と受け止められ、個人投資家にちやほされたのか?

 

そこに我が国特有の「銘柄によって異なる売買単位制度」が放置されていたから、と私は確信します。

証券取引所の上場管理がだらしないから無法者がはびこるのです。

 

銘柄によって売買単位が異なる我が国の株式市場

銘柄

売買単位(株)

株価(2.18:円)

東京三菱銀行

          1

963,000

ガリバー

10

15,130

トヨタ

100

4,170

トレンド

500

4,770

新日鐵

1,000

        280

 東海観光

3,000

33

             (Yahoo!ファイナンスより作成)

 

我が国の既存大企業、例えば東京三菱銀行であろうと1対10の株式分割を3回行えば1×10×10×10=1000倍の持株数増加になります。

株価96万3000円で1株単位というイレギュラーな売買仕法は、963円で1000株単位の取引という、従前の流通単位に落ち着くはずです。

しかしながら既存大企業はこういう面倒な作業をやりません。

最大のホンネの理由として既存大企業は個人株主の持株比率増大を蛇蝎のごとく忌み嫌ったからと想像させられます。

日本的大企業にとって内なる敵は株主によるコーポレートガバナンスだったからです。

なまじ株式分割などやって、口うるさい個人株主が増えたら総務部長はつまらん仕事ばかり増えて……。

くわえて10倍分割した時点で配当金を1/10にしたとたん、株式分割の虚構性が一発でバレてしまいます。

外国人投資家は10倍分割をしても、配当金率は1/5に留め置き、実質倍額増配を果たせ、と騒ぎ出すでしょう。

 

すなわち、オールドエコノミーの会社が別の思惑で避けてきた株式分割を、ライブドアは“鳥なき里のコウモリ”の感覚で実現してくれたわけです。

 

今回のライブドアによるニッポン放送の買占め事件で、我が国も本格的なTOB時代がスタートか?と騒がれました。

中には同社の発行した新株引受権付き社債を利札つきの普通債と思い込み、5年後の償還不能を予想するトンチンカンな経済評論家も登場したほどです。

スポーツ新聞や若者向けの雑誌はライブドアを「旧弊を打ち破る新時代のスター」と扱っているようですが、私の捉え方は全然異なります。

堀江氏の所業は幕末の尊皇攘夷浪士が、勤皇をタテマエに市井の商家へ押し込み強盗を計ったに等しいものと糾弾します。

あるいは新撰組の芹澤鴨が飲み代欲しさに京都の豪商へ大砲をぶっ放した喩えです。

如何にニッポン放送を買収する悠久の大儀があるといえ、800億円の転換価格下方修正条項付き新株引受権(MSCB)の発行は既存株主の利益を大きく侵害するものであります。

そして「正義を僭称する者のMSCB発行」は、流通市場をますます発行市場と混濁化させ、証券市場を限りなくモラルハザードの世界へいざなうことでしょう。

 

ライブドアが猿真似したNY市場における株式分割事例を以下にご紹介しました。

例えばNY市場のゼネラル・エレクトリック社は100年以上も前から株価100ドルを超える値嵩株であったそうです。

同社のみならずアメリカの上場会社は好業績を背景に株価が100ドルを超えてしばらく経つと株主優遇策として株式分割を行い、数年〜十数年たって株価が再度上昇してくると、又もや株式分割の繰り返しという歴史を持ちます。

ただし、業績が伸び悩み、株価が100ドルに達しない状況が続きますと、いつまで経っても株式分割は行われません。

各社の最終分割の日付にご注目ください(青字で記入)

 

< アメリカのオールドエコノミーの株主優待ぶり 

銘柄

業種

株式分割 (年月:割当率)

持株増加率

コカ・コーラ

食品

77.1〔1:2〕86.1〔1:3〕90.3〔1:2〕

92.1:〔1:2〕96.3〔1:2〕

48.0倍

G・E

電機

71.6〔1:2〕83.6〔1:2〕87.5〔1:2〕

94.5〔1:2〕97.5〔1:2〕00.5〔1:2〕

64.0倍

フォード

自動車

77.6〔4:5〕83.12〔2:3〕86.6〔2:3〕

88.1〔1:2〕94.7〔1:2〕

11.25倍

 

ボーイング

 

航空機

77.9〔1:2〕79.4〔2:3〕80.4〔2:3〕

85.6〔2:3〕89.6〔2:3〕90.6〔2:3〕

97.6〔2:3〕

 

22.78倍

 

シティー・グループ

 

銀行

87.3〔1:2〕93.3〔2:3〕93.8〔3:4〕

96.3〔2:3〕96.11〔3:4〕97.11〔2:3〕

99.1〔2:3〕00.8〔3:4〕

 

23.8倍

(米国版Yahoo!Finance より作成)

< 我が国のオールドエコノミーの株主虐待ぶり 

銘柄

業種

株式分割 (年月:割当率)

持株増加率

キリン・ビール

食品

82.1〔1:1.07〕88.1〔1:1.05〕

90.1〔1:1.05〕

1.18倍

日立製作所

電機

69.1〔1:1.25〕70.8〔1:1.2〕

90.3〔1:1.05〕

1.57倍

 

トヨタ自動車

 

自動車

84.6〔1:1.05〕85.6〔1:1.05〕

88.12〔1:1.05〕89.6〔1:1.05〕

90.6〔1:1.1〕91.6〔1:1.1〕

 

1.47倍

三菱重工

総合重機

64.4〔1:1.1〕69.4〔1:1.25〕

1.37倍

東京三菱銀行

銀行

90.3〔1:1.05〕

1.05倍

Yahoo!ファイナンス及び会社四季報より作成

注意:日立と三菱重工の70年までの表示で一部は株主割当有償増資)

 

上記の表でG・Eの持株増加率(64倍)は素晴らしいものがあります。

G・Eは「経営の神様」と崇め奉られたジャック・ウェルチ氏のリストラ政策により、経営本までベストセラーとなる話題を呼びました。

ところが2002年にアメリカ会計スキャンダルが発覚したとき、ウェルチ氏は引退後にかかわらず、G・Eの交際費を年間2億6千万円(250万ドル)も使っていたと糾弾されたものです。

しかしながら我が国の日立やキリン・ビールの株主にしてみれば、雇われ経営者がどれほど交際費でドンちゃん騒ぎを繰り返そうと、株主価値を何十倍にも増やしてくれた人なら、つまらん文句は言わないでしょうに。

 

1970年以降、経団連銘柄は株主に如何なる利益還元を果たしたのでしょうか?

こうした我が国の貧困な株主対策の環境下で、ひたすら株券を増刷する新興会社は鮮烈な印象を与えた、というところからライブドア神話が始まったと私は考えます。

1960年代、アメリカでスタジオ・ミュージシャンに毛の生えた存在のベンチャーズ( The Ventures )が、我が国でエレキ・ギターの神様扱いされたような哀しさが漂いますね。