またまたアメリカの証券スキャンダルです。今度は損保業界でした。

 

NY州、大手代理店を提訴 米保険業界に捜査拡大か

 

【ニューヨーク14日共同】米ニューヨーク州司法当局は14日、米保険代理店最大手マーシュ・アンド・マクレナン(MMC)が、保険会社からの割増手数料のある保険商品を優先して販売し、契約者に損失を与えたとして、同社に損害賠償を求める訴訟を州地裁に起こした。

 

同州のスピッツァー司法長官は、米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)のこうした販売への関与も公表、問題は今後、米保険業界に拡大する可能性がある。

MMCは数年にわたり、割り増しされた手数料が支払われる保険商品の販売に重点を置いた営業を展開。顧客利益を無視した詐欺などの疑いがもたれている。同長官によると、顧客は主に大企業で、損失額は合計で約8億ドルに上るという。

共同通信 10月15日9時43分更新

 

以下はマーシュ・アンド・マクレナン社の直近6ヶ月のチャートです。( MMC )

急落ぶりをご覧ください。

http://finance.yahoo.com/q/bc?s=MMC&t=6m&l=on&z=m&q=l&c=

 

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アメリカの証券スキャンダルは世界最高レベルの知能犯罪といわれます。皮肉なことに犯罪高度化の背景と考えられるのが、世界最大の人員を擁する米国SEC(証券取引監視委員会)の存在です。平成15年、我が国の金融庁のそれは219人といわれますが、米国SECはなんと3,165人。

しらみ潰しに法令違反や株価操作を取り締まるわけですが、「権兵衛がタネまきゃ烏がほじくる」式に、追われるほうも最高の知恵を絞り出しますから、イタチごっこのスパイラルで経済犯罪を極度に発達させたと考えられます。しかしながら、そうして生まれた技術は価値中立的でありまして、アメリカ金融界の悪党たちが知恵を絞った結果は、別の意味で金融工学を飛躍的に発展させたとも言えるでしょう。

 

今や、欧米人の目から見る日本の金融ビジネス界は、槍と弓で戦争を続けている未開人社会と映るかもしれません。

証券市場におけるスキャンダルもまた同レベルのシロモノです。西武グループの虚偽表示事件など、B−2スティルス爆撃機によるピンポイント爆撃の対極に位置する、棍棒と山刀の殴り合いを連想させます。

(1)2002年、米国アナリストのインチキ推奨株事件

証券アナリストの違法推奨行為を罰せられたアメリカ証券業界大手10社

証券会社名

罰金額

想定示談金

ソロモン・スミス・バーニー社

464億円

377億円

クレジット・スイス・ファーストボストン社

232億円

174億円

メリル・リンチ社

232億円

116億円

モルガン・スタンレー社

155億円

58億円

ゴールドマン・サックス社

127億円

58億円

ベア・スターンズ社

93億円

58億円

ドイツ銀行

93億円

58億円

J・Pモルガン・チェイス社

93億円

58億円

リーマン・ブラザース社

93億円

58億円

UBSウォーバーグ社

93億円

58億円

   スピッツアー・テン訴訟2003年8月判決(1ドル=116円換算)

http://albany.bizjournals.com/albany/stories/2003/07/07/daily42.html

 

(2)2003年投信スキャンダル

米国では個人金融資産の運用先として投資信託が一般的で約6000万世帯以上が利用し、資金総額は7兆ドル(約760兆円)以上といわれます。我が国の個人金融資産1400兆円のうち投信信託の購入額が約40兆円という規模に比べ20倍近くの、まさに米国市民の貯金箱なのであります。(我が国ピーク時は2000年の約60兆円)

ところがその投資信託業界で旧弊としての不正取引がまかり通っていた、しかもその手口は単純で株式市場の立会いが終了した4時以降に特定法人顧客の口座だけは延長試合を認めるものでした。4時以降に発表された新製品発表や決算発表の成果をもとに特定大口投資家は自分の組み入れ銘柄を入れ替えすることができたのです。

この方法は競艇のスタート直後、開催元が特定顧客だけに舟券をナイショで売るようなものでしょう。絶対の勝ちは保証されませんが確率的に勝つチャンスは激増します。つまり一般投資家の運用資金を使って特定顧客や運用担当者自身が不当な利益を得る仕組みにほかなりません。おまけに9月の時点で真っ先に摘発の号令を放ったのがSEC:米証券監視委員会ではなく、飛ぶ鳥落とす勢いの米国版「鬼平」スピッツアー氏だったのですから探索方の縄張り争いや功名合戦はすさまじい勢いとなりました。

2003年、スピッツアーNY司法長官が口火を切った後のてんやわんや

9月

 ニューヨーク州司法当局がバンク・オブ・アメリカ社、バンク・ワン社、ストロング社などの投信から不当に有利な扱いを受けたヘッジファンドへの罰金を発表。その後、これら投信の責任者は退任

10月

 証券大手メリルリンチ社がミレニアム・パートナーズ社に不当な投信取引を許していたとしてブローカー3人を解雇したことが表面化
 金融最大手シティー・グループ傘下の証券会社が投信運用不正に関与したとして担当者4人を解雇したことが表面化

 SECとマサチューセッツ州当局が運用大手パトナム・インベストメンツ社を不当な短期取引で提訴。その後、同社への運用委託解消が相次ぎCEOは退任

11月

 SECなどが金融大手プルデンシャル・フィナンシャル系証券会社の元運用担当らを提訴

 運用大手アライアンス・キャピタル・マネジメント社の社長らが退任

 証券大手チャールズ・シュワブ社が投信の一部での不正認める

 SECなどがピルグリム・バスター社と創業者の民事制裁に入ったと発表

 UBS社やインベスコ社の不正関与が発覚

 ニューヨーク州司法当局などがセキュリティートラスト社の幹部3人を刑事訴追し、会社解散命令をだす。当局は重窃盗罪、証券詐欺、文書偽造罪の適用を求めている。SECも元幹部と同社を民事提訴した

 証券大手モルガン・スタンレー社が投信手数料不正でSECなどに制裁金支払いで和解

 連邦地検がシティー・グループを捜査。1997〜99年、顧客からの預かり資産の証券代行事務に関し、下請け業者からの受託手数料(邦貨換算約20億円)を顧客口座に還元しなかった容疑

12月

 SECとニューヨーク州司法当局は投信大手インベスコ・ファンズ社と同社CEOが特定大口顧客による不正取引の便宜を図ったと民事提訴した

 中堅投信ストロング・ファイナンシャル社のCEOは2日辞任した

(日経、朝日、時事通信、共同などの報道記事から作成)

 

もちろん、アメリカ経済の行き過ぎたカジノ・ビジネス化が20年後のエンロンやワールドコムに見られる粉飾決算を呼んだともいえましょう。しかしながら破綻した問題企業は市場から退出させられ、経営者も罰せられ、さらに当該企業の「監査法人」は会社解散に追い込まれました。制度の抜け道をくぐって悪事を企む無法者は未来永劫、全世界に絶えないでしょう。されど同じ悪さを二度と繰り返させない法律改正の迅速さだけは見習うべきものと考えます。我が国ではインチキ材料株で法令違反を犯した首謀者は逮捕されます。しかし監査法人が財務省から処罰された話は聞いたことがありません。

 

(3)罰刑の厳しさ

我が国で90年代はじめに発覚した特定大口顧客への損金補填スキャンダル。

我が国の個人投資家は激昂しました。当時は手数料が自由化されてなかったので証券界は大口注文割引の一環と利回り保証を思いついたのでしょう。しかしながらルール違反には違いなく証券業界トップの相次ぐ引責辞任にも投資家の憤激は収まりませんでした。信頼感を失った証券界は99年のIT相場到来まで出来高激減を余儀なくさせられます。

経済犯罪の代表例といえる証券取引法違反を検証してみましょう。我が国の証券取引法は、いんちきな株価操作やインサイダー取引などに対し、刑事罰による一罰百戒をタテマエとしております。しかし、実効性の薄いことが最大の理由でしょうか、類似犯罪が絶えません。

どうして一罰百戒主義に善良市民がひれ伏しないか?

獲得金額の莫大さに比べた罪刑の軽さが「パクられる奴は運が悪い」と、ヤリ得をほのめかしているからに違いありません。

インサイダー取引に関する各国の処罰規定

日 本

3年以下の懲役もしくは300万円(法人は3億円)以下の罰金またはその併科

アメリカ

20年以下の懲役もしくは5億3250万円(法人は26億6250万円)以下の罰金または併科

イギリス

7年以下の禁固もしくは罰金、またはその併科。ただし罰金額は上限なし

ドイツ

5年以下の禁固または2億4390万円以下の罰金

フランス

2年以下の禁固もしくは2億円(法人は自然人の5倍)以下の罰金。不正取引で実現された取得益の10倍まで科料拡大が可能

(ドル=106.5円 ユーロ=134・5円 で換算)
(平成15年第15回金融審議会金融分科会第一部会資料より作成)


証券取引法違反に関する日米摘発状況
(2002年)

 

勧告または
調査事件数

刑事案
件数

日 本

30

10

アメリカ

598

259

(平成15年第13回金融審議会金融分科会第一部会資料より作成)

 アメリカの罰金例

会  社

日 付

罰金
(億円)

事   件

クレジット・スイス・ファースト・ボストン

'02.01

75
32

特定顧客に対する新規公開株の不当な優先割当

ヒューゴ・サルベイダー 他

'02.03

0.6
0.9

インサイダー取引

ゼロックス

'02.04

― 
10

不当な情報開示

投資銀行・証券会社
総計10社

'02.12

413
520

投資銀行部門と調査部門の不当な連携プレー

シティーグループ

'03.07

66
61

取引先企業の行った不正会計への関与

罰金項目の上段は不当取得益の拠出強制金、下段は民事制裁金で併科
(平成15年第14回金融審議会金融分科会資料より作成、
1ドル=106.5円で換算)

アメリカの新しい企業改革法
(2002年7月発効サーベンス・オックスリー法の一部)

企業幹部等に対する禁固刑・罰金などの強化

証券詐欺

5年 ⇒ 25年

操作に絡む書類破棄及び改竄

⇒ 20年

監査書類の保存義務違反

⇒ 10年

通信・郵便詐欺

5年 ⇒ 20年

決算報告書虚偽記載

5年 ⇒ 20年

財務報告認証義務違反

20年、民事制裁金500万ドル

(野村総研資料より作成)

 

以下は平成15年第12回 金融審議会 金融分科会第一部会の議事録より抜粋


「…そもそもの基本認識として、現在、証券取引法がきちんとどれだけ守られているのか、それがアンダーエンフォースメントの状態にあるのかどうかという基本認識は非常に問題だと思いますけれども、少なくともエンフォースされた事例が非常に少ない、これは確かであります。

最近、よく中国からいろんな調査団の方がお見えになって、証券取引法についてもいろいろご質問を受けたんですけれども、……「結局、日本では証券取引法上の民事責任の規定が発動された例は実はないんですね」と、確かに厳密に適用された例はまずないと思います。……世界中大体どこでも同じような問題が起こるというように考えるとしますと、アメリカの証券取引法違反の判例の多さと比較すると、ゼロというのは何かおかしいのではないか。……相場操縦を疑われるような市場価格の形成が行われている例が随分あったように思いますが、それについてそれを摘発するような例は非常に少ないわけですし、ましてや民事責任がそれで認められた例は極めて少ない。

 

昨年末に開かれた第12〜15回金融審議会(総理大臣の諮問機関:事務局は金融庁)では「エンフォース」という言葉が何度も使われておりました。

エンフォース:Enforce(正しくはインフォースと発音)⇒補強する、実効力をともなわせる、強制する…くだけていえば「四の五の言わず、言われた通りにしろ!」と相手を従わせる意味のカタカナ外来語です。

証券取引法の定めに従って証券関係者や発行会社や投資家も含め、誰であろうとやってはいけないということがあるはずです。我が国には犯罪防止のための立派な法律があります。しかし法律は滅多なことで適用されず罰金も低いザル法という社会通念が現実でした。加害者の人権保護に手厚い我が国では、身代金誘拐や強盗殺人や組織暴力団犯罪と比較したとき、経済犯罪の罰金だけを膨らませるわけにいかないからです。

 

悪党は洋の東西を問わず、どこにでもおります。

アメリカの証券市場がスキャンダル発覚で長期低迷という話は考えられません。むしろ、投資家はゲーセンのもぐら叩きマシンのように、次々と摘発を続ける当局の姿勢に信頼を抱くと考えられるのではないでしょうか。

 

(筆者注=今年6月2日に「証券取引法等の一部改正」が成立し、インサイダー取引などの罰則が強化されました。しかし、施行期日が12月1日とまだ時間があり、関連法案の改正を待たないと正確な文章が書けないという憾みがあります。近々、「平成16年6月の法令改訂による新しい証券市場論」を発表する予定です)